手術なしの椎間板ヘルニアグレード5に鍼治療をした結果
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こんにちは。
にまいる動物病院の獣医師、小山です。
「昨日まで元気だった愛犬が、突然歩けなくなってしまったら…」
本症例は、椎間板ヘルニアで下半身が動かなくなったミニチュアダックス「モカちゃん」が、
鍼灸と東洋医学的ケアを受けて82日後に再び走れるようになった経緯を報告します。
(ブログの最後に動画があります)
患者さまのご紹介
お名前:モカちゃん
犬種:ミニチュアダックス
年齢:10歳9か月(治療開始時)
性格:お散歩大好き、神経質なところがある、病院が苦手で診察室に入るとケイレン発作を起こしていた。

◆2025年5月25日の夕方
突然、お散歩中にモカちゃんは歩けなくなりました。
そこからは寝たきりの状態になり、自力での排尿や排便もできなくなりました。
当時の心境を、飼い主様はこう語ってくれました。
「大変ショックを受けました。もしかしたら歩けない状態が続くのではないかという不安が大きかったです。」
来院されたのはその3日後。
西洋医学的診断
お話をお伺いし、触診を行いレントゲン検査を行いました。
- 自力での排尿困難
- 屈筋反射・CP(プロプリオセプション)検査ともに反応なし
- 深部痛覚無し
- レントゲン検査にて胸椎に狭窄を確認
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屈筋反射とは?
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犬の足の神経がどのくらい働いているかを調べるための反射テストです。
たとえば、足先を軽くつまんだり、刺激を与えたときに――
👉 「足をキュッと引っ込める」動きが起きるかどうかを見ます。このとき犬は「痛い!」と感じているとは限りません。
この反応は脳ではなく、脊髄(背骨の中の神経)だけで起こる反射だからです。つまり、
足を引っ込める → 脊髄の神経はまだ反応している
動かない → 神経がかなり弱っている可能性
ということを知るための検査です。
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CP(プロプリオセプション)とは?
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「CP」は「意識的に自分の足の位置を感じる力」のことです。
正式には proprioception(プロプリオセプション) と言い、
日本語では「固有位置感覚」と呼びます。
🧠どんな働き?
犬が立ったり歩いたりするとき、
「自分の足が今どこにあるか」を脳が感じ取って、
バランスを取るために体を調整しています。この“足の位置を感じるセンサー”がCPなんです。
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深部痛覚とは?
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「神経がどこまで生きているか」を調べる検査です。
足の指の骨に近いところを強めにギュッとつまんで(ちょっと痛い刺激を与えて)、犬がその痛みをちゃんと「感じているか」を確認します
痛みを感じないということは、神経がかなり深刻にダメージを受けているサインです。
これらの検査から私は、
西洋医学的には「椎間板ヘルニアグレード5」と診断しました。
椎間板ヘルニアの最も重篤な状態です。
こちらは当院で作成した椎間板ヘルニアのグレードを説明したイラストです。

外科手術を行っても、歩けるようになる確率は約50%と言われています。
手術後には、歩けるようになるために長期間のリハビリテーションを行うこともあります。
飼い主様も当初は「手術しか治療法はないと思っていた」そうです。
それは、多くの飼い主様が抱く共通の認識かもしれません。
東洋医学的診断
東洋医学的診断は「肝腎陰虚」でした。
肝腎陰虚(かんじんいんきょ)とは?
これは東洋医学の考え方のひとつで、体の「土台となるエネルギー」や「うるおい(陰)」が不足している状態をいいます。
肝(かん):血液の流れや筋肉・腱のしなやかさに関わる
腎(じん):骨や脊髄、成長や老化、体の芯を支える力に関わる
陰(いん):体を冷静に保ち、うるおいを与えるもの
この「腎」と「肝」を支える“陰”が不足すると…
骨や関節が弱くなる
↓
筋肉や腱に力が入りにくくなる
↓
体のうるおいが足りず、乾きやすい・熱っぽくなる
といった変化が起こります。
椎間板ヘルニアとの関係
椎間板(背骨のクッション)は、腎のエネルギーに深く関わると考えられています。
肝腎陰虚になると、
- 背骨や椎間板の栄養が不足する
- 筋肉や腱のしなやかさが失われる
- 乾燥してクッション性が落ちる
こうして椎間板がもろくなり、傷みやすくなります。
結果として椎間板ヘルニアが進みやすくなる、という流れです。
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中医学的診断の注意点
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※ヘルニアの子が必ず肝腎陰虚という事ではありません。
また肝腎陰虚の子が必ずヘルニアになる訳ではありません。今回のモカちゃんは体質的には「肝腎陰虚」でもともとダックス系の子がなりやすい「椎間板ヘルニア」を助長していたと考えられます。
同じ「椎間板ヘルニア」の子でも体質が違う子には、処方される漢方薬が異なってきます。これを「同病異治 ドウビョウイジ」と言います。
同じ病気でも、「体質」が違えば別の漢方で元気になります。
おうちの愛犬・愛猫の中医学的体質を調べるにはこちらがおススメです!
鍼治療の始まり
初めての施術の時、モカちゃんはとても緊張し、痙攣発作を起こしました。
元気な時から病院が苦手だったモカちゃん…
以前から病院に来た時には、緊張のあまり痙攣発作を起こすことがありました。
思うように体が動かせなくなってモカちゃんの心はいつも以上に不安な状態だったことでしょう
(痙攣発作は初日と二日目の二回のみで、
治療が進むにつれ診察室ではニコニコご機嫌な様子を見せてくれるようになりました。)
治療方法
- 電気鍼治療 (三回目まで毎日通院、以降は週一回通院にて施術)
- 漢方薬 (肝腎陰虚へ対応した動物用漢方薬2~3種類を診察毎の体調に合わせて処方)
- 内服ホモトキシコロジー (脊髄の修復を目的に2種類)
鍼治療に大きな可能性を感じていましたが、モカちゃんの状態はとても重篤な状態でした。
もとの状態まで回復するには時間がかかると考えていました。
モカちゃんの生命力を信じて、できうる限りの治療を進めました。
しかし…
治療3日目~の快進撃
治療3日目(鍼治療3回目)
自力で排尿できるようになる
治療9日目(鍼治療4回目)
立たせてあげると立つことができるようになる
治療17日目(鍼治療5回目)
なんと…
支えなしで立つ事ができるようになったのです!
この「立てるようになったこと」が、
飼い主様にとって一番の「驚きだった」そうです。
目に見える回復をきっかけに、ご家族の表情もどんどん明るくなっていきました。
その後もモカちゃんの回復は続きます。
治療24日目(鍼治療6回目)
ぶんぶんと尻尾を振ることができるようなる。
その後も施術するたびに、失われていた足先の感覚がどんどんと戻っていきます。
治療45日目(鍼治療9回目)
ついに…
自力で1歩、2歩、と歩いたのです!
歩き始めてからの回復は目覚ましく、
その後、数日で歩行距離はどんどん伸びていきました。
治療82日目(鍼治療14回目)~現在の様子
診察室から出た私を・・・
モカちゃんが走って追いかけてきてくれたのです!
走ろうとする気持ちに体がまだ少し追いつかない様子ではありました。
けれど、その姿は紛れもなく「走っている」姿でした。
ご家族と顔を見合わせ、
喜びを分かち合ったあの瞬間は、獣医師として最高の喜びを感じる瞬間の一つです。
それから5日後・・・
治療87日目(鍼治療15回目)
ぴょんぴょんと飛び跳ねられるようにまでなりました!
下半身不随の状態から、再び自分の足で駆けられるまでに回復したモカちゃん。
診察間隔をいまは1カ月に一回に変更し、経過をみています。
治療をしてみて飼い主さまの感想
今後の治療の参考にと、鍼治療についてのアンケートにもご協力いただきました。
治療を始める前と後のお気持ちの変化について
“あきらめが希望になった”とのご感想をいただきました。
こんなに嬉しい言葉はありません。
これからも少しでも多くの方の希望につながるよう、努力を続けてまいります。
同じように悩んでいる他の飼い主様へのメッセージ
「効果を実感したためおすすめしたいです」
という力強いお言葉をいただきました。
通院中の対応についても
「とても安心できた。誠心誠意の治療を感じた」とのお言葉をいただき、スタッフ一同、心より感謝しております。
もちろん、どの子も必ず同じように回復してくれるとは限りません。
けれど、
モカちゃんの症例は、西洋医学では厳しいとされた症状でも、鍼灸治療という選択肢が大きな希望になり得ることを教えてくれます。
もし今、愛犬や愛猫のことで深い悩みを抱えているなら、どうか一人で抱え込まないでください。
大切な家族のために、できることはまだあるかもしれません。
諦めてしまう前に、ぜひ一度、当院にご相談ください。
モカちゃんの治療経過動画
このたび、モカちゃんの治療経過を動画にまとめました。
最初のころはまったく足が動かず、飼い主さまもご心配のあまり表情も曇りがちでした。
一時は寝たきり状態で排泄物のせいで皮膚が荒れてしまい、その様子は動画に残すことができませんでした。
そこで、モカちゃんの経過をよりわかりやすくお伝えするため、
同じように下半身が動かせなくなっている患者さまの動画で比較動画を作成させていただきました。
快くご協力くださったハナちゃん、そしてハナちゃんの飼い主さまに心より感謝いたします。
ハナちゃんも鍼治療を通して下半身の感覚を取り戻してくれました。
そして今回、症例報告としての発信をご快諾くださったモカちゃんの飼い主さまにも、深い感謝を申し上げます。
このように多くの方のご協力を得て、皆さまに治療の可能性をお伝えする動画を形にすることができました。





